4月30日のWeekly Concertは、二胡が主役のコンサートでした。ホールの観客はコンサート終了後、驚きの歓喜に包まれました。かつての伝統楽器としての印象から一新し、ピアノやギター、カホンなどの西洋楽器とともに、西洋のクラシック、ジャズ、タンゴ、ポップス、映画音楽、ミュージカルなどを奏でました。コンサートが終わる頃には知らず知らずのうちに、二胡に対するイメージが、おしゃれ、カラフルで、ハッピーなものに変わっていました。これこそがまさに日本を活動拠点とする二胡演奏家ウェイウェイ・ウーの目指すところでしょう。二胡は人の心をつなぐ媒体となり、物事の美しさや人々の心情を伝えます。二胡は現代的でエネルギッシュでそして言葉を超える存在となり得るのです。
映画「ラ・ラ・ランド」の中で、主人公の歌手Sebが歌手Keithとともにジャズの発展について議論を交わすシーンがある。Sebは伝統を守ってこそがジャズであると主張するのに対し、Keithは現代音楽との融合こそがジャズが生き残り発展していく道だと説く。映画はこのテーマに対し、答えを提示せず、観客の判断に委ねている。伝統と変革の間の綱引きは、いつも伝統文化の継承と発展を伴うものである。
ウェイウェイ・ウーの現代二胡の道も常に物議を醸しながら前進し続け、今がある。1985年、まだ十代だったウェイウェイ・ウーとその家族が上海初のテレビ選抜番組「カシオ家族歌合戦」で優勝を果たすと、一家は瞬く間に上海では知らない者はいないほどの「有名人」となった。それから数年後にはウェイウェイ・ウーは日本へ渡り専門的な音楽の勉強を続けることとなる。
1990年代、まだ大部分の日本人が二胡という楽器を聞いたこともなかった頃、学校でテレサ・テンの「何日君再来」を演奏した時に、聞いていた日本人が涙を流すのを見て、ウェイウェイ・ウーはこの楽器の力とそれは国境を超えることができることを確信した。ただし、そのためにはもっと多くの人に二胡を聞いてもらう必要があると感じた。
そこで最初、ウェイウェイ・ウーは、日本のジャズ、ロック、ポップスのミュージシャンとのコラボレーションを選択する。これらのミュージシャンに即発され、また生まれ持っての好奇心と創造力を発揮し、二胡を日本の音楽シーンの中に根付かせることに成功する。2000年ミレニアムの年に、ウェイウェイ・ウーはワーナー社と契約、上海、世界、流浪などをテーマにした二胡オリジナル作品を次々に発表、現代の嗜好にあうメロディーやアレンジ、楽曲制作を通じて、人間性や様々な心情を表現した。これらのアルバムは売上ランキングの上位に入るのみならず、CMやTVなどの注目を集めることにも成功し、サントリー ウーロン茶のCM曲やトレンディドラマの主題曲も担当することとなった。
1990年初めには日本では、誰も振り向かなかった二胡という楽器が、今では、日本人が一番多く学ぶ中国楽器の一つとなった。わずか20年あまりのことだ。これはウェイウェイ・ウーと同様に、日本で身をもって二胡文化を推進した他の中国人演奏家にも関係している。しかし、現代的な創作曲を通じて二胡を日本音楽シーンの中で一つの地位を確立するまでに押し上げ、メディアでも積極的に取り上げられるようになったのは、やはりウェイウェイ・ウーの努力が結実したところが大きいというのは言うまでもない。4月30日のコンサートの曲目はまさにウェイウェイ・ウーが20年来取り組んできた自身のオリジナル楽曲、各種有名曲を二胡バージョンとして現代風にアレンジしてきた作品の集大成となっている。
懐かしい上海の音
コンサートは、よく知られている「パイレーツ オブ カリビアン」の主題曲からスタートした。ピアノ、ギター、そして打楽器のエネルギッシュな伴奏の中、ウェイウェイ・ウーは観客席の中から二胡を優雅に弾きながら登場、熱気に包まれながらステージへと上がった。
続いての2曲はウェイウェイ・ウーが故郷上海をモチーフにした作品だ。日進月歩で変化目まぐるしい魔都、そして新天地の華やかなネオンを連想させる「新天地」、ほろ酔い気分でブルースな雰囲気に包まれた夜の上海「上海セレナーデ」。
ウェイウェイ・ウーの父親、巫洪宝のオリジナル曲「郷音」は、遠く離れた日本にいる娘を思う年老いた父親の心情を綴った曲だ。こぶし回しの多いメロディー、伝統的な上海劇の曲調とも融合し、敢えて座って演奏するのも、伝統的な二胡への回帰を表現しているためであろう。
多様な各国の音楽を取り込んで
続く3曲は世界各国の音楽をウェイウェイ・ウーが現代二胡用にアレンジした作品だ。そのうち1曲目の「リベルタンゴ」はアルゼンチンのアコーディオン奏者、ピアソラの代表曲。規則的なリズムの中で二胡の旋律が段々高まっていき、最高潮に達したところで高度なテクニックで二胡とギターが絡み合っていく。自由奔放なラテン音楽さながらに。
続く「スペイン」は、著名なジャズピアニスト、チック・コリアの代表作で、ジャズの定番曲でもある。音楽はゆったりと自由なテンポからスタートし、次第に規則的なリズムへと変化していく。小刻みなクイックテンポで音楽がピークを迎えると、二胡だけでなく、バンドもギターからピアノへ、そしてパーカッションへとハイスピードで自由な即興演奏へと展開していく。
2曲の、二胡によって味付けされた音楽の美酒に酔いしれた後は、しっとりと抒情的な世界へと誘われる。ミュージカル「レ・ミゼラブル」のテーマ「I Dreamed A Dream」だ。かすれそうな、まるですすり泣くような音色、そしてちょっと鼻にかかったような濃厚な音色へと、二胡の音色を自在に操る演奏法で、ミュージカルの主人公の悲痛でやるせない気持ちを存分に代弁している。
二胡で奏でる西洋クラシック
小さい頃から音楽学院で専門的な音楽教育を受けたウェイウェイ・ウーにとって、西洋クラシックへの憧れも心の中に宿り続けていた。曲目紹介の時に彼女は「ベートーベンの『ピアノソナタ 月光』は大好きな曲の1つであり、何とかして7.5オクターブのピアノ曲を2.5オクターブの二胡用にアレンジできないかと模索した」と語った。このような努力の結果、ピアノ曲の中の幻想的で物思いに耽る第1楽章から、軽快ではじけるような第2楽章、そして激しい風雨に見舞われたように駆け抜ける第3楽章へと、二胡で見事に表現していく。続くモーツアルトの「トルコ行進曲」、ブラームスの「ハンガリー舞曲」のメドレーは、ウェイウェイ・ウーによってユーモアあふれるコミカルな味付けをした「音楽の串焼」のようにアレンジされていた。
弦で人の心を動かす、愛溢れるグループ
コンサートの後半は、ウェイウェイ・ウーが日本で立ち上げた心弦二胡楽団が登場。愛と温かさに満ち溢れた共演が行われた。楽団のメンバーは職種も背景も様々だが、皆、二胡の音に魅せられ、ウェイウェイ・ウーのもとで二胡を学んでいる人々だ。
心弦という楽団名は人の心を弦で動かしたい、という目標から名づけられた。まさにその名の通り、童心に溢れたアニメのテーマソング「君をのせて」「風のとおり道」、民族音楽の要素が色濃いスペインの名曲「アストゥリアス~伝説」、ドレミソラのたった5つの音で初心者のために作られた「新芽のテーマ」、近現代の流行歌「夜来香」「菊花台」まで、ステージ上のメンバーはウェイウェイ・ウーのリードのもと、皆、思い思いに感情豊かに演奏した。
メンバーには、あどけなさが残る若者もいれば、白髪を携えた年配の方もいる。老いも若きも皆、お揃いの法被を着て、見えない音楽で結ばれて一つになった、ピンク色に染まった心温まるグループに見える。最後に楽団で演奏した中国二胡の名曲「賽馬」の意気盛んな演奏は、まるで百匹の名馬が美しい草原を疾走する様を思い起こさせる。二胡音楽が未来へと永遠に続いていくのを暗示するがごとく。
ウェイウェイ・ウーは、観客の拍手に応えてこう語った。
自分は、生まれも育ちも上海、生粋の上海人として小さい頃からラジオでこのWeekly Concertを聞いて育った。従って、Weekly Concertのステージは自分にとって特別な意味がある。故郷を離れてちょうど25年目の今年、故郷に戻り、このWeekly Concertのステージに立てることは、小さい頃からの夢がついに実現したという気持ちだ。
今日のWeekly Concertでの、他に類を見ない二胡の演奏は、ラジオやネットでこのコンサートを鑑賞した人にとってよい経験となり、将来の音楽の新たな道を提示したことだろう。